再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

さすがに業務の終わった内視鏡室で長話もできなくて、私は皆川先生に連れられ院内のカフェにやってきた。
白衣のまま窓際の小さなテーブルに座り、先生が注文してくれたカフェラテを受け取る。

「甘いのが好きなのは変わっていないね」
「ええ」
人間そう簡単に食の好みは変わらない。

「先生はブラックですね」
「うん」

あの頃から、私はいつもミルクもお砂糖も多めのコーヒーで先生はブラック。
好みは全然違うのに、どんなに暑い時期でもホッとしか飲まないのは一緒。

「本当は東京を離れる前に、君と話をしたかったんだ。でも、できなかった」
「それは・・・」
なぜですかと聞きたいのに、声が出ない。

当時の記憶は私にとってまだトラウマとして残っていて、思い出すだけで胸が苦しくなる。
他人から「人殺し」と罵声を浴びせられたのも、「お前なんていらない」と拒絶されたのも始めただった。社会に出たばかりの私は本当に打ちのめされた。
でも一番辛かったのは、当事者である私よりも上司である皆川先生の責任が問われる結果になったこと。

「ごめんなさい」
3年かかってやっと口にした言葉。

「違うよ」

違わない。すべては私一人がしでかしたこと。

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