再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「和田先生、準備できました」
「はい」
塙くんに声をかけられ腰を上げる。

そう言えば、最近変わったことがもう一つ。それが塙くんの態度。
反抗的になったと言うか、今までみたいに素直に「はい」と言わなくなった。
まあこれは仕事に慣れてきた研修医のあるあるなのかもしれないけれど、少し気になっている。

「痛み止めの薬はなし?」
「はい。そうです」

今から大腸カメラを受けるのは40代の男性。
普段は上田先生が外来で見ていて、塙くんも診察に同席した患者。
たまたま今日の検査を希望されたから、私は検査だけを引き受けた。
でも、いくつもの病変があり時間もかかるし痛みだってあるはず。本当は痛み止めの使用を勧めたいところだけれど・・・

「本当に痛み止めはいらないって?」
「ええ、僕が説明しましたから間違いありません。仕事でこの後車の運転をするそうです」
「そう」

痛み止めを使うと1日は車の運転ができないからって使いたくないって言う人もいるけれど、この患者さんにはあまりお勧めできない。

「かなり痛みが」
「ちゃんと確認しましたからっ」
いつになく強い口調の塙くんにさえぎられた。

「ちょっと、塙くん」
怒るよりも驚きで唖然とする私の言葉を、
「準備できました。お願いします」
ちょうどかけられたスタッフの声で止められた。

やはり塙くんらしくないな。それに、周りが見えていないようで少し危険な気がする。

「行きましょう」
そんな私の思いなど知る由もない塙くんは、一人検査室へと入って行った。
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