再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「環ちゃん、運転中は前を見て」
「ぁぁ、はい」

慌てて視線を戻し、ハンドルを握りなおす。

「僕の甥っ子なんだが、いい若者なんだ。環ちゃんとも話が合うはずだよ」

お見合い?私が?
そんなこと考えたこともなかった。

「お見合いと言っても難しく考えずに、会って食事でもしてくれればいい。環ちゃんも今付き合っている人はいないだろ?」
「え、ええ」

さすがに毎日家で顔を合わせている副院長には筒抜けらしい。

「好きな人がいたりは・・・」
「しません」

この話の布石が皆川先生の話題だったんだろうと、力強く答えた。

「よかった。じゃあ一度会うだけ会ってみてくれ」
「え、でも」

そんな急にと言おうとして、言えなかった。
これだけお世話になっている副院長に、お願いだなんて言われると断りにくい。

「近いうちに紹介するよ」
「・・・」
何とも返事のしようがなくて、黙ってしまった。


それっきり副院長も口を閉ざしてしまい、無言の車内。
病院から家までの10分少々。
沈黙が苦痛じゃないわけではないけれど、無駄に話を振る気にもならなくて、私はそのままでいた。
結局この話はここで止まってしまった。
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