エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
1.結婚してもらえますか
「おかえりなさーい!」

 九月。少し涼しく過ごしやすくなった夜、ゆうに三十畳はあるリビングに明るい声が響いた。

 三十五階からの煌びやかな夜景には誰ひとり目も向けず、クラッカーを鳴らして天花寺(てんげいじ)文尚(ふみなお)――文くんを囲んでいる。

「どうも」

 文くんは髪についたクラッカーの紙を取りつつ、軽く頭を下げた。

 今日は幼なじみでもある文くんの『おかえりなさい会』。

 脳外科医の彼は、三年ぶりにイギリス留学から戻ってきたのだ。
 だから、私も文くんと会うのは留学直前の壮行会と称したホームパーティー以来。

「もう。三年も経つと、そんなによそよそしくなるの? 寂しいわ。昔はお姉ちゃんの真美(まみ)ちゃんとうちの(みお)と三人で仲良くしてて、私は本当の息子みたいに思ってるのに」

 母が残念そうにそう零した。

『澪』とは私のことだ。

 私は宝生(ほうしょう)澪。
 父は小児科医で母は看護師。文くんの家族とは物心ついた時から家族ぐるみの付き合い。

 ちなみに真美ちゃんは、文くんのお姉さんで美容外科医をしている。すごく綺麗な上、気さくで憧れのお姉さんだ。

 文くんは困った顔をして、私の母へ笑いながら返す。

「いや、ただ懐かしんでただけで他意はないですよ」

 すると、文くんのお母さんの由里子(ゆりこ)さんが言った。

「あ、ちなみに真美は少し遅れて来るって。開業直後だから忙しいみたい。ま、私たちで先に食べてましょ」
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