エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「天花寺先生！」
「お疲れ様。患者の……妻の様子は」

　私は『天花寺先生』という言葉と彼の声と、いっぺんに情報を得て頭の中が混乱している。

　信じられない気持ちで顔を横に向けると、文くんが足早にベッドへやってきた。

「澪……！」
「ふ、文くん？　嘘……ここって文くんの――」

　搬送先がまさかの文くんの職場とわかり、あたふたする。

　大きく見開いた私の瞳には、見たことないくらい不安そうな表情を浮かべる文くんが映し出されていた。

「天花寺さんって、やっぱり先生のご家族……奥様だったんですね……あ。私、木南(こみなみ)先生に意識戻った旨報告して来ますので」
「よろしくお願いします」

　看護師が部屋を出ていったのを見てから、私は上半身を起こそうと動く。
　しかし、思っていた感覚と違い、身体を支える腕には力が入らなく、気付いた瞬間、ふらついてベッドから落ちそうになった。

「澪！」
「ご、ごめん……」

　間一髪で文くんが支えてくれたおかげで助かった。

　ホッと胸を撫で下ろしていたら、文くんはそのまま、ぎゅうっと抱きしめる。
　急な抱擁にどぎまぎするのも初めだけ。

　文くんの腕の力から、彼は真剣に心配をしてくれていたのを実感し、反省する。

「さっき、俺と同じ名字の女性が搬送されてきたって言われて……名前を聞いて心臓が止まるかと思った」
「……うん。ごめんなさい」

　会話が途切れても、文くんの腕は緩まぬまま。

　それほど驚かせてしまったのだと痛感して、居た堪れない思いになる。

　少ししてから、文くんが口を開く。