エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
「貧血だって聞いた。ちゃんと検査した方がいい」
「はい」

 白衣からする病院の香りに交じって、ほのかに文くんの匂いも感じる。

 私は瞼を伏せて徐々に気持ちを落ち着かせた。そこに、再びノックの音がした。
 瞬間、文くんは身体を離し、そっと私をベッドに横たえる。

「失礼します。お、天花寺先生」
「木南先生、お疲れ様です」
「いやあ~。こちらの患者さんが天花寺先生の奥様とは。驚きました」

 やってきたのは男性ドクター。気を失っていて記憶にないけれど、多分救急車で運ばれた私を診てくれた人だろう。

 木南先生と呼ばれている彼は、五十代前半くらいの容貌だった。
 ニコニコしてて、文くんと話している雰囲気からも気さくで陽気そうな人柄っぽい。

「原因などの詳細は……明日以降になりますか」
「そうだね。今日は医師も少なくてね。血液検査は今回してるけど、一部の検査は明日になってしまいそうだから。天花寺さん、体調はどうですか?」

 木南先生は、途中で私を見て尋ねてきた。

「あ、ええと……今は横になってるので大丈夫です」
「さっき、起き上がった直後倒れ込んだので、まだ安静にしていた方がよさそうです」

 私の答えに続き、文くんが補足する。

「そうかー。天花寺先生のシフトは?」
「今日は当直で……」
「他に同居されてるご家族はいない?」
「ええ。あいにく彼女の実家も平日は家を空けなければならないかと」

 私のことなのに、どうにもまだ思考がぼんやりしていて文くんに対応を任せきり。

「んー、じゃあ念のため今日は一泊していくかい? どうせ明日また来てもらって検査だし」
「そうしていただけたら安心です。それなら明日、午前の外来終わってから一緒に連れて帰れますし。いい? 澪」

 私がコクコクと首を縦に振って承諾すると、その様子を見ていた木南先生は笑って言った。

「じゃ、そうしようか」
「ありがとうございます。澪、俺もう仕事に戻らなきゃならないから。今夜はここで安静にしてて。では木南先生、妻をどうぞよろしくお願いします」

 そうして文くんは粛々と頭を下げ、病室を去って行った。
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