エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
 広いダイニングテーブルには、所狭しと豪華な料理が並んでいる。
 由里子さんは仕事が忙しいのに加え料理が苦手なのもあり、こういった集まりの時にはケイタリングを依頼しているらしい。

 私はみんなが料理に手を伸ばすのを見届けた後、ゆっくり料理を自分のプレートに取り分けた。いい香りに誘われて、すぐにひとくち頬張る。

 由里子さんと母が、そして文くんのお父さんの(しょう)さんと父が、それぞれ談笑している。文くんは父たちの方に混ざって話をしていた。

 私の両親は文くんのご両親とは昔から仲が良く、私が生まれる前からの友人らしい。

 文くんの家は医師家系。お祖父様は医療法人社団天花寺の理事長で、匠さんはグループ病院である『せたがや桜総合病院』の院長兼外科医局長、由里子さんも同グループのレディースクリニックで院長を務めており、最前線で活躍している。

 私の両親は今から約十五年前に大学病院を離れ、小児クリニックを開院した。父が院長、母は看護師長として二人三脚で頑張っている。

 両家の四人は全員医療従事者。つまり、出会ったきっかけは、偶然同時期に勤務していた大学病院というわけだ。

 職場が変わってもなお忘新年会などは恒例で、両家の交流は続いている。

 私はまた料理を口に運び、咀嚼しつつ今度はこっそり文くんを見た。

 百八十センチ近い長身の彼は、私の八つ上の三十二歳。
 物心ついた頃にはもう文くんは身近で、兄のような存在だった。しかし、成長とともに彼に幼なじみ以上の感情を抱いていった。

 だって、文くんは本当に完璧な男の人だ。

 勉強は教科問わず完璧で、教え方もすごく上手。運動神経も抜群で、高校まで続けていたテニスは全国大会まで勝ち進んでいた。

 通った鼻筋に涼し気な目元、落ち着く声色、優しい性格――どれをとってもパーフェクトで、いつも女性に視線を向けられていたのも納得だった。同時に、初めて嫉妬心を覚えた。

 面倒を見てくれる、カッコいいお兄ちゃん。私を守ってくれる、自慢の兄。
 それが年を重ね、彼を取り巻く女性の存在を知り、彼のことが特別なのだと自覚した。

 でも、彼が私を気にかけてくれるのも、笑いかけてくれるのも頭を撫でるのも全部、私が親戚の妹みたいな存在だから。
 彼の優しい眼差しは、私が求める〝特別〟ではないと気づいていた。

 それから、叶わぬ恋に深く傷つく前にと自ら距離を取った。

 あれは、私が高校二年生、文くんが研修医一年目。

 ちょうど文くんが多忙を極める時期だったのもあり、ほとんど会わなくなった。そうこうしているうち、彼は留学が決まって日本を発ってしまったのだ。
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