エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
「まさかさぁ。ミイちゃんと文尚がそういうことになるとは思わなくて、さすがの私も母親から聞いて驚いた」
「あっ、う、うん」
「パーティーの時にそういう雰囲気になったってことかな? だけどミイちゃんは押すタイプじゃないでしょ。文尚からよね? まあそれも意外って言えば意外なのよね」

 立て続けに言葉を並べられて、プチパニック状態。なにも答えられず、愛想笑いも引きつって視線を泳がせる始末だ。

 すると、真美ちゃんは少々声のトーンを落とす。

「ね。文尚って寝る時、ずーっと天井見たまま直立姿勢のまま朝まで動かないわよねえ。もう子どもの頃からそうなの。たまに死んでるんじゃないって思わない? まあ寝相悪いよりはいいかもしれないけど。ね、今もそのまま変わってないでしょ?」

 彼女が悪戯っぽく笑って話す内容に、私は困惑してしまうばかりでうまい返し方が浮かばない。

 相手が友達ならどうにか笑って流せたかもしれないが、目の前にいるのは文くんの姉で、私にとってもお姉ちゃん的存在の真美ちゃん。
 なんだか胸の内を見透かされている気がして、どうしてもまともに顔を見て話せない。

「うん。多分……そうだったかな?」

 私は壁や窓に忙しなく視線を動かしながら、当たり障りない回答をした。
 次の瞬間、真美ちゃんの顔から笑顔が消え、真面目なトーンで手招きされる。

「ミイちゃん、ちょっとこっち来て」

 ギクリと身体を強張らせたものの、口角を上げてキッチンを指さす。

「え? あ、でも今なにか飲み物を……」
「いいから」

 言下に一蹴され、私は為す術なく彼女の指示通りに動いた。ひとり分の感覚を開けて、真美ちゃんの隣に腰を下ろす。

 なんだかこれから叱られる時の雰囲気に似ている。こっちも心当たりがあるだけに、真美ちゃんをまっすぐ見られない。

 けれど、向こうからの視線は痛いほど感じていて、この沈黙が耐え難い。
 辛うじて視界の隅で見えた真美ちゃんは、綺麗な足を組んだ。

「で? 今回の茶番劇の理由は? ミイちゃんはあいつになにを頼まれたわけ?」

 聞かれた瞬間、心臓が信じられないくらい速いテンポで脈を刻む。

「なに……って」
「あー、別にミイちゃんに怒ってるわけじゃないから安心して。私はミイちゃんの味方なんだから」

 怒ってるわけじゃない、私の味方、という言葉に無意識に胸を撫で下ろす。しかし、すぐに『そういう問題じゃない』と自分を戒めた。

 やっぱりどこかでボロを出しちゃったんだ。
 真美ちゃんを騙し通すのには無理がありそうとは薄々予感していたけど、まさかこんなにすぐ見破られるとは。一体、どこで確信されちゃったんだろう。

 困惑した目で真美ちゃんを見ると、彼女は苦笑した。
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