エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
「……ごめん」

 思わず謝罪の言葉を口にして、反省する。

 帰国した直後までは、確かに妹みたいな幼なじみとして見ていたはずなのに。

 そりゃあ、大人になったな、とかは感じたけれど……。気付けば瞬く間に彼女の存在意義が変化していて、明らかに異性に対する感情が芽生えている。

 それをもう否定してはいないものの、八つも年下の子に余裕のないところを見せられないだろう。
 まして、怖がらせるのだけは一番避けたい。

 ひとり心の中で葛藤をして黙り込んでいた刹那、彼女の白く細い腕が首に絡みついてきて、あっという間に唇を奪われた。
 目を白黒させる俺に、澪は大きな瞳を潤ませながら言う。

「なんで謝るの……?」

 良心が痛む。彼女を傷つけたかったわけじゃない。
 俺が反応できずにいると、澪は苦笑交じりに続ける。

「心の準備とか、そういうのは『万端だよ』ってとても言えないけど、それは『無理』って意味じゃなくて……」
「……うん。だから準備できてからで」
「前に言ったよ? 私……文くんのことずっと好きだった。準備なんかしてもしなくても、絶対に思うことは同じだよ。うれしい気持ちしかありえない」

 言下に言葉尻を遮ってされた告白は、飾った言葉でも、取り繕ったりもしていなくて、ありのままの彼女の言葉。

 真剣な顔つきの澪に、ぽつりと尋ねる。

「……それ。ずっとって、一体いつから……」

 この間、澪の気持ちは聞いた。

『ずっと』と言っても、捉え方は自由だ。だから俺は、それを言われた時から密かに自分の都合のいい解釈をしている気がしてならない。

 すると、澪がきょとんとして答える。

「えっ。いつからって……ずっとだよ」

 最後は俯いて、とても恥ずかしそうに、か細い声を絞り出してそう言った。
 瞳に映っている肩を窄めている彼女が愛おしい。

「もしかすると今のって……初めてだった?」

 澪からのキスはとてもぎこちなくて、単に緊張していたせいとも思えなかった。
 澪を見れば、ますます顔を真っ赤にして、最後には両手で覆って隠してしまった。

 俺は彼女からの拙いキスを思い返し、気持ちが昂る。
 それと、改めて確かめ彼女の積年の想いをひしひしと感じ、熱い思いが込み上げる。

 まさか本当に〝ずっと〟だったなんて。
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