外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
クリスタルブルーの海の国で
「美鈴、聞いてるの? こら、ちょっと待ちなさい」
私、嘉門美鈴は、今非常に困っている。
金魚のフンのように後をつけ回り、聞きたくもない話を永遠としているこの母親に。
「今、最終チェックに忙しいの。お母さんのせいで忘れ物したらどうするの」
絶対に忘れちゃいけない仕事道具は二度確認しているからもう大丈夫。
あとは、スマホにパスポートに……。
「美鈴。お母さんはね、あなたのカメラマンとしての仕事への情熱は買っているし、誇りにも思ってるわ。自慢の娘よ」
バッグの中を確認する私の後ろで、母は諭すような話し方を始める。この調子だと、まだまだ先は長い。
「でもね、あなたももう三十歳間近なの。あと二カ月もしたら三十歳よ? そろそろ仕事は一旦休んで、女性の幸せを考えてほしいのよ。いい人と結婚して、子どもを授かって──」
「結婚して子ども産むことだけが女性の幸せって、お母さん考え方古いよ」
結婚して、妊娠出産し、子育てをするのが女性の幸せ。確かに、それは女性の幸せかもしれない。
だけど、結婚しなくても、子どもを産まなくても、幸せに生涯生きていく女性の幸せの形はいくらだってある。
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