外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 ヴィラを出て昨夜立ち寄ったレセプションに向かい、私はスタッフに告げられた内容にひとり「嘘でしょ」と声を出していた。

 昨夜のレストランでの食事とバーでのお酒、そして急遽宿泊したホテル、すべての支払いはもう済んでいると言われてしまったのだ。

 支払いはまとめてと聞いていたから、帰りに支払わせてもらおうと思っていた。

 けれど、昨夜は急遽帰らないという急展開に。

 そして結局、先に帰った大河内さんがすべて支払いをしていってしまったのだ。

 これでは約束が違うし、大河内さんにばかり負担をかけてしまって納得がいかない。

 ひとりリゾートアイランドからスピードボードでマーレに戻り、宿泊中のホテルで帰国の支度を終えたのは九時をまわったところ。

 ヴェラナ国際空港から発つ時刻は十一時過ぎのため、その前に私は在モルディブ日本大使館へと向かった。

 滞在中に一度訪れていた大使館には、迷うことなく向かうことができた。

 キャリーケースを引きながらビルの入り口を入り、エレベーターで八階を目指す。

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