外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
このまま支払いをしないで帰るわけにいかないと、その思いだけで大使館を訪れてしまったけれど、今から改めて顔を合わせると思うと緊張が増してくる。
昨夜ベッドの上で何度も見た、彼の熱のこもった視線。
着衣ではわからなかったけれど、筋肉質な逞しい体に鼓動は終始高鳴っていた。
その場限りの相手でしかない私に優しく触れてくれたのは、彼が紳士で余裕のある人だから。
でも、体に刻み込まれた熱は未だに残っているような感覚がある。
こんな状態で真面目な場所で会って話すのは、ちょっと居た堪れないかもしれない。
エレベーターを降り、大使館の窓口へと向かってフロアを歩いていく。
「あっ……」
向こうに上背のあるスーツの後ろ姿を見つけ、咄嗟に声が漏れる。
大河内さんは奥の通路の先に吸い込まれるようにいなくなってしまい、私の足もその場で立ち止まった。
しかし数分その場で待ってみたものの、再び消えたその先から大河内さんが現れる気配はない。
限られた時間ということもあり、仕方なく姿を求めて奥へと向かっていく。
「やっと一緒に働けるようになったと思ったのに」