外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 覗こうと思った通路の先から日本語で話す女性の声が聞こえてきて、驚いて足が止められる。


「上が決めたことだ。仕方ないだろ」


 続けて大河内さんの声が聞こえてきて、鼓動がドッと音を立てた。

 どうやら誰かと話をしているらしい。

 話の最中に邪魔をしてはいけないと思いながらも、通路の角からそっとその先を覗いてみる。

 見えたのは、大河内さんとゆるふわセミロングヘアの女性。

 彼女は私が空き巣被害に遭って初めて大使館を訪れたとき、最初に対応にあたってくれたあの女性だ。


「そうかもしれないけど、納得いかない!」


 覗き見は悪趣味だと身を引っ込めようとしたときだった。

 その場を去りかけた大河内さんを引き留めるように、女性が広い背中へと抱きつく。

 躊躇ないその行動に、ただ目撃してしまっただけの私がばっと身を引いていた。驚いたせいか、鼓動がドッドッと激しく高鳴る。

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