外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
あ……言ってやればよかった。あんたのせいなんだからね、って……。
去っていく制服の広い背中をぼんやり見送りながら、心の中で毒づく。
このタイミングでバッタリ七央に会ったなら、母にお見合いを勧められて困っていると愚痴を言ってもよかった気がする。
七央くんも結婚したんだからって、うるさいって。
「ふぅ」と息をつき、開いていた手帳をパタンと閉じ立ち上がった。
七央は幼なじみであり、私の初恋の相手。
幼い頃から一緒にいて、自分でも気づかぬうちに恋心を抱いていた。
だけどその想いを伝えることはなく、七央に彼女ができれば、幼なじみという立場で見守り、自分自身も七央とは違う人と付き合ったことは何度もあった。
あくまで〝幼なじみ〟という関係でそばにいる。
その関係と距離間が居心地いいのもあったけれど、それはいつか終わりがくるだろうと思っていた。
そして、七央の結婚という転機でそれは突然訪れた。