外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「美鈴、第一印象は大切よ。明るく、爽やかに。そんな無表情じゃダメ」
そうは言っても、気分が明るくも爽やかでもない私には難しい。
でも、席につけば嘘でも微笑くらいは浮かべないといけないだろう。
お見合いには賛成できないし気は進まないけれど、葉子伯母さんや両親の顔に泥を塗るわけにはいかない。
お見合いの席では大人しく過ごしておいて、後日断りを入れればいいだけだ。
「美鈴、あまり緊張するな。普段通りのお前でいいんだ」
プレッシャーをかけてくる母とは違い、父親は気の進まない私を気遣ってくれる。
こういう部分でふたりのパワーバランスが上手くとれているような気がしないでもない。
先導していた着物姿のスタッフが足を止め「こちらでごさいます」と個室を案内する。
草履を脱いで小上がりを上がると、今になって鼓動が早鐘を打ち始めた。
母の「入るわよ」という小声を聞きながら、帯で苦しい胸で深呼吸をする。
「失礼します」
金箔が施された襖を開け、母が「どうも、お待たせしました」と奥に向かって頭を下げた。
父が入り、そのあとに母が続き、口々に先方へ挨拶をする。
「美鈴」
開いた襖の脇で待っている私へ、いよいよ中へ入るように声がかかった。
断る予定の縁談とはいえ、かしこまった席というだけで緊張を強いられる。