外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「そうですか、モルディブに。美鈴も、少し前に仕事でモルディブに行っていたんですよ。ねぇ、美鈴?」


 ぼんやりしながらあれこれ考えていると、横から母に話を振られてハッとする。


「あ、はい。一週間ほどですが」


 大河内さんが私へと視線を向け、穏やかな表情で「そうでしたか」と頷く。

 この調子だと、今日初めて顔を合わせたということにしておくようだ。

 彼の様子から察して話を合わせようと平静を装うけれど、あのモルディブでの一夜が鮮明に蘇ってきてしまい次第に落ち着かなくなってくる。

 甘い囁き。優しく熱い指先。そして、意外にも激しく何度も求められたこと……。

 思い出すと顔に熱が集まってくる。着物の下で肌が熱く火照り、汗ばんでいくのを感じていた。

 私はこんな状態なのに、大河内さんは至って普通で落ち着き払っている。

 本当に今日初めて顔を合わせたかのような様子で、逆に戸惑うくらいだ。

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