外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 仕立てのいいブラックのスリーピースに身を包んだ今日の大河内さんは、モルディブで出会ったときとどこか印象が違う。

 同じスーツでも、クールビズだったあのときよりかっちりとしているからだろうか。

 庭園へと出るとそこには大きな池があり、赤い橋が架かっている。

 そばには立派な白い梅が満開で見頃を迎えていて、橋の中腹で思わず足を止めていた。

 赤い橋に手を置き、大きな梅を見上げる。池に反射する花も美しく、そこに優雅に泳ぐ錦鯉に目を奪われた。


「どうぞ」

「え?」

「先ほどの『あの』の続きです」

「あ……」


 横を見上げると柔和な笑みが目に入り、どきりとする。急に話を振られて反応が鈍りかけたけれど、橋から手を離して姿勢を正した。


「お久しぶりです」


 ぺこりと頭を下げ挨拶をした私を前に、大河内さんはほんのわずかに奥二重の目を大きくする。

 第一声が再会の挨拶だとは思わなかったのだろう。面食らったような様子の大河内さんは、今度は急にふっと笑った。

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