外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「でも、私も今日来て、大河内さんに会えて良かったです」


 顔を上げてはっきりとそう言った私を、大河内さんは黙ってじっと見下ろす。


「あのとき払えなかった食事代等々、支払わせてください」


 もう支払う術はないと諦めていたけれど、こんな形で再会をしたならば払わないわけがない。これでやっと引っかかっていたことがスッキリする。

 私からあのときの支払いについて持ち出された大河内さんは、気が抜けたようにフッと鼻で笑った。


「会えて良かったなんて言われて一瞬浮かれたら……支払いをしたかったからなんて理由だとは」

「えっ、だって」


 浮かれた!? な、なんでそんな冗談をサラッと!


「あのとき、言ったじゃないですか。それなのに、私一円も払ってないです」

「いいですよ、気にしなくて」

「そうはいきません!」

「あなたも強情な人だな。いいんですよ、それ以上にいい思いさせてもらいましたから」


 い、いい思いって……!


 またサラッとすごいことを言われて、攻めの姿勢を崩される。

 あの濃厚な夜の記憶が鮮明に蘇り、頬に熱を感じた。

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