外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
〝結婚というのはこういうもの〟そんな常識やイメージに囚われているから、婚姻届を提出するという行為が途轍もなく神聖な儀式のように感じるだけ。
でも、そんなことはきっとない。
これから先、無理して結婚などせず、独り身で自由気ままに生きていきたいと思ってきた大河内さんと私。
そんな同じ考えの私たちが一緒になれば、もしかしたら物凄く居心地がいい人生の始まりになる……?
「日常生活はガラッと変わると思います。住まいと、生活を共にする相手は私になる。だけど、仕事やプライベートは今まで通りで構わない。必要があれば夫婦として表に出ればいい。いかがですか?」
大河内さんの簡潔な説明に、気づけば「はい」としっかり頷いていた。
「では、決まりですね」
大河内さんは端整な顔に柔らかい笑みを浮かべ、すっと手を差し出す。
「これから、よろしくお願いします」
「よろしく、お願いします」
出された手に手を重ね、しっかりと固い握手を交わした。