外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
三月下旬。
昨日辺りから東京でも桜が見頃だとテレビのニュース番組で取り上げられ、今日は綺麗に花を咲かせる桜を何度も見かけた。
「わぁ、嬉しい。美鈴さん、ありがとう!」
「モルディブ、スイーツはこれといって名物がないみたいで、ココナッツオイルと石鹸なんだけど」
「ココナッツの? えー、使うの楽しみ」
「お土産渡しにくるの遅くなっちゃったから、お菓子じゃなくてちょうど良かったかもね」
週末、金曜日の昼下がり。
モルディブでのお土産を届けるため、私は七央と佑華さんの住むマンションを訪れていた。
助産師である佑華さんはパイロットの七央と同じく勤務が不規則。今日は夜勤で、午後は出勤まで家でまったりしていると聞き、お邪魔する約束を取りつけた。
「モルディブ、どうでしたか?」
「うん、良かったよ。やっぱり海が綺麗だし。穏やかな国だったな」
「へぇー。いつか行ってみたいな」
キッチンから出てきた佑華さんは、アンバー色のティーセットをトレーに載せている。
私が掛けているソファまで運んでくると、ローテーブルの上のふたり分のそれを並べた。