外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
『置いていかれちゃったって思わないの? 七央くんも結婚したんだし、私だってって』
出がけの母の言葉が耳の奥で蘇り、窓の外の景色を目にしながらまた小さく息をつく。
離陸を始めたジェット機からは、どんどん遠ざかる地上が見えていた。
だからって、別に置いていかれたなんてまったく思わないんだよね……。七央は七央。私は私だから。
七央が結婚を決めたのは、佑華さんという運命の相手にめぐり合ったからだ。
焦って慌てて結婚をしたわけではない。
出会ってお互いを知っていき、この人と生涯添い遂げたいと思ったから結婚したのだ。
そういう相手に出会って初めて、結婚したいっていう気持ちが芽生えるのだと思う。
だから、お見合いなんかして結婚したって、その先に待っている結婚生活が幸せだなんて私には思えない。
このまま帰国したくないな……。帰ったらまたお見合いお見合いって、うるさく言われるだろうし。
日本を離れていくジェット機の中、私は小さなため息と共に静かに目を瞑った。