外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「テレビなんかで映るああいうホテルは、さすがにひとりではね……」
そう言いながらふと頭に浮かぶのは、思いがけず宿泊したモルディブ最終日の夜。
でも、やっぱりその出来事はこの場では切り出せない。
「そっか。でもやっぱりいいな、モルディブ。すぐには行けないから、美鈴さんにもらったココナッツオイルと石鹼で少しでも気分味わいますね」
「うん。ぜひぜひ」
「あ、そういえば、今日何か話があるって言ってましたよね?」
約束を取りつけたメッセージのやり取りの中で、佑華さんに例の話を報告しようと『話したいことがある』と言っていた。
お見合いをし、大河内さんと結婚する運びになったことだ。
「あ……うん。実はね……」
話を切り出そうとした、そのとき。リビングのドアが開き見慣れた顔が覗いた。
「あ、七央さん、おかえりなさい」
「ただいま」
「早かったですね」
現れたのは、スーツ姿の七央。私服通勤で制服に着替えるパイロットの七央がスーツということは、本社で会議か何かに出たのかもしれない。
それとも、私用という可能性もありだ。