外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
桜を見上げながら歩いていたところ、進行方向から名前を呼ばれた。
歩道の先にはチャコールグレーのスリーピースに身を包んだ大河内さんが立っていて、突然の登場に慌ててペコリと頭を下げる。
まだ約束の時間より少し早く、ちょっと先に到着して大河内さんの働いている外務省を外からちらっと眺めようと思っていた。
待ち合わせはここからもう少し離れたカフェだったから、こんなところでバッタリ会ってしまうとは思いもしない。
「こんにちは。お仕事、早く終わったんですか?」
「いえ、今日は通常勤務ではなかったので。想定外のことが起こって約束の時間に待たせることになっては申し訳ないので、待ち合わせの時間に余裕を持って約束させてもらっていました」
「ああ、なるほど。そうだったんですか」
さすが大河内さん。そんな予測の下の約束時間だったらしい。
「嘉門さんは、なぜこんなところに」
「あ、私は、桜をちょっと観てからと思いまして」
思いがけず桜並木があって、外務省を眺めがてら約束の時間まで花見をしようと思ったくらいだ。