外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「そうでしたか。それは、ちょうどよかったです。ここの桜は毎年綺麗なので、見ていただきたかったですし」
大河内さんの視線が私の肩からさげているカメラを捕らえ、フッと笑みをこぼす。
「さすが嘉門さん。今日もカメラを」
常に何かしらの撮影機器を持っているのは、私にとっては当たり前のこと。だけど、一般の人にとって、それは目につくことなのだろう。
「はい。だいたいいつも持ってますよ。いつ撮りたいものが現れるか、わからないですからね。今日は持ってて正解の日でした」
大河内さんの「行きましょうか」という声を受けて、桜並木を並んで歩き出す。
「ところで、今一緒にいた方はどなたですか?」
「え? 今」
突然の質問に一瞬意味がわからなかった。でもすぐに、七央にここまで送ってきてもらったことを思い出す。
「あ、さっきのは友達で……あの、モルディブで話した、幼なじみです」
そう答えてから、それは大河内さんが聞いたら微妙なことではないかとハッとする。
片想いをしていた相手だったと、そう話していたからだ。
利害の一致がきっかけとはいえ、仮にもこれから結婚して夫婦になる相手。いい気分にはならないはず。
でも、嘘をついて隠すようなやましいことは何もない。