外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
大河内さんには、舞い込むお見合いを拒否したい理由が確かにあった。
お相手がいるのに、私とこんな形で結婚してしまってもいいのか。
私に交友関係には口を出さないと言ったのは、自分にも特別な相手がいるから……?
だとすれば、この結婚は仮面夫婦ということだ。
「少し歩きましたが、大丈夫ですか?」
「あ、はい。全然大丈夫です」
沈黙のまま銀座方向に歩みを進め、都会のオアシス日比谷公園に差し掛かった。そのまま帝国劇場方面に向かっていく。
元々約束していたフレンチカフェに到着し、大河内さんは窓際の席へと私を促した。
金曜日の夕方。店内は半分以上の席が埋まる賑わいをみせている。
それでも店内が落ち着いて感じるのは、ダークブラウン調のシックな内装のおかげなのかもしれない。
「何にしますか?」
メニューに目を落とした大河内さんに倣って、それぞれの席に置かれたメニューを手に取る。