外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 カフェを出たのは午後六時過ぎ。

 外はすっかり夜の街となり、昼間よりも空気がひんやりと感じる。

 夜は少し冷えると思い、今日はタートルネックのニットプルオーバーのレイヤードコーデに決めた。

 ニットは季節柄パステルグリーンのものを選び、春っぽい印象になるように。パンツはベージュの肌馴染みのいいカラーにした。

 吹き込む春風に肌寒さを感じニットのチョイスは正解だったなと思いながら、ふんわりと首周りを包むニットに顔を埋めた。


「あの、また一円も出してないんですけど」


 またもカフェの支払いをし損なってしまい、大河内さんに意見する。

 ちょっとレストルームに席を外した隙に先に支払われてしまい、店を出る間際また財布を手にオロオロしてしまった。


「またそれですか。もうそんなことは気にしないでください」


 大河内さんはもう慣れたことのようにクスッと笑い、軽く流すような口調でそう言う。

 この様子では、いい加減しつこいとでも思っているのだろうか。

 しつこいと思われても、やっぱり黙ってはいられない。

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