外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
手を繋ぐことなんて、大したことではない。
だって大河内さんとは、キスもその先も、あのモルディブ最後の夜に──。
だけど、あのときとはまた違った胸の高鳴りが止まらない。
いつの間にかタクシーを捕まえた大河内さんに連れられ到着したのは、カフェから程近い高層タワーマンション。
ブラック系のタイルを基調としたスタイリッシュなエントランスを、手を引かれ歩いていく。
ホール内にはコンシェルジュカウンターもあり、入ってきた私たちに気づいたコンシェルジュが丁寧に頭を下げていた。
「なんか、すごいマンションじゃないですか?」
「セキュリティ面で安心していただける場所を条件に探しました。コンシェルジュ付きに加え、多重のオートロックシステム。エレベーターはフロアカット機能が搭載になっています。訪問先のフロア以外には停止できない。共有スペースには防犯カメラも設置されていますし、人と機械とで万全なセキュリティ体制になっています」
「すごい……」
「場合によって、私が長期不在になることも想定してです」
そっか。今は日本に戻って本省勤務だけど、どこかの国に派遣される場合だってあるわけだもんね。
そうなると、ここでひとりで暮らすこともあるっていうことか……。
でも、私の身を案じてこんなセキュリティ万全のところに住まいを用意してくれたなんて嬉しいな。