外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
今更言うことではないかもしれない。
でも、ここで確認しなければもう後がない。
モルディブで見たあの女性のこと。
この結婚を進めても、彼女とのことは問題ないのか……それが言い出せない。
なんでも臆することなく意見できるタイプの人間のはずなのに、おかしい。
「よくなければ、今あなたと、この場所で婚姻届を前に話していないです。何か、引っかかることがありますか」
「……いえ、何も、ないです」
結局、喉元まで出きていた言葉を声に出すことはできなかった。
この結婚の一番の意味は、永遠と続くであろう縁談から逃れ、互いの両親を安心させるため。
そして、結婚に対して同じ意識である私たちが一緒になれば、理解もあり、快適な未来が約束されるだろうという好条件にお互いが乗っかったから。
仮面夫婦──プライベートには口を出さないと大河内さんに言われたこともあり、私も彼を追及してはいけないと思ってしまった。
「じゃあ、書きます」
ペンを取り、一気に書類を埋めていく。
今の私のような気持ちでこの紙を書く人はいるのだろうか。これを書くときは、誰もが幸せの絶頂なのではないだろうか。
そんなことを漠然と思いながら難なく書類を書き終えた。