外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
ハイグレードマンションのバスルームは広く快適。もちろん足を伸ばして湯船に浸かれるし、肩湯やミストサウナまでついていた。
もともと長風呂のお風呂好きだけど、これはお風呂好きに拍車がかかりそうだ。
肌を整え髪をだいたい乾かし、バスルームをあとにする。
「ひゃっ!」
廊下に出たところでスーツの晶さんと鉢合わせ、悲鳴に似た変な声が飛び出した。
「悪い。驚かせるつもりじゃなかったんだけど。今少し前に帰った」
私の様子に晶さんは謝ってくれたけれど、晶さんは何も悪くない。
こんなセキュリティ万全のマンションの家の中なのだから、百パーセントに近い確率でそこで会うのは晶さんしかいないのだ。
「ごめんなさい。まさか帰っているとは思わなくて、反射的に変な声を……あっ、おかえりなさい」
晶さんは「ただいま」と微笑み、私の頭に手を置く。
「髪、まだ乾いてない」
「あ、一回スマホを見ようと思って。晶さんから連絡が入っているかどうか確認してから続きをと……」
そう言うと、晶さんは「おいで」と私の背をそっと押してバスルームへと連れていく。
洗面台に用意されている椅子を引き出し私をそこに座らせ、おもむろにドライヤーを手に取った。