外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「この時間に帰宅できたっていうことは、今日は早いほうですか?」

「ああ、少しだけ残業だった」

「良かったです。晶さんの仕事の都合わかってなくて、夕飯を用意してしまっていたので」

「え、作ってくれたの?」

 どこか驚いた様子で晶さんは訊く。


「はい。私も、家を空ける日があるので、仕事がないときや、ここにいられるときくらいは食事の用意ができたらいいなって」


 キッチンに入り、蛤のお吸い物を温める。

 晶さんは私のあとについてきて、まだ片付けが途中のキッチンを目にする。

 タケノコとワラビの煮物を盛り付けていると「お、和食?」と訊かれた。


「はい。お好きだってこの間聞いたので。あ、もう食べられますか? すぐに出せますけど」

「せっかくだから、すぐにいただこうかな」

「じゃあ、出しますね」


 それからすぐ、ふたり文の食事をダイニングテーブルに並べた。

 一度リビングを出て行った晶さんは戻ってくるとスーツのジャケットを脱いでいて、シャツの腕をまくってキッチンに入ってくる。

 どうしたのかと思っているうち、流し台で調理器具を片付ける私の横に並んで立った。

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