外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「晶さん、今日はありがとうございました」

 午後九時前。

 マンションの玄関を上がったところで、今日一日のお礼を口にする。

 タマキカメラを出たあと、私の希望で観たいと思っていた映画に付き合ってもらった。

 その後は、晶さんが青山にある素敵なフレンチレストランにバースデーディナーに連れていってくれ、素敵すぎる誕生日の一日を過ごすことができた。

 こんな充実した誕生日は初めてだ。


「カメラ、本当に良かったのか? どれも選ばなくて」

「あ、はい。なんか、かなり時間かけて見ていたくせに、すみません」


 無くしたものと同じカメラはもう古く市場にないけれど、同じシリーズのニューモデルは何作も出ている。

 玉置さんが無くしたものと同等のスペックのものを用意してくれたけれど、つい悩むフリをして最終的には選ぶことをしなかった。

 中には気に入ったものがひとつあり、つい食いつき気味に話を聞いてしまったけれど、晶さんが「それにする?」と言いだして、今にも購入しそうな勢いに待ったをかけた。

 だって、二十万円以上もするカメラを、誕生日とはいえ買ってもらうのは気が引ける。いくら相手が旦那様でもだ。

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