外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「いただきます」


 でも、やっぱり食べる気がおきない。お腹は空いているはずなのに、口にして気持ち悪くなってしまったらという恐怖に襲われる。

「どうした、食べないのか?」


 食事を始めた晶さんが、躊躇している私に声をかける。

 ハッとして目を向けると、手を止めじっと私のことを見ていた。


「あ、食べます」


 慌ててスプーンとフォークを手に取り、スパゲティをフォークに巻き付けていく。もう一度「いただきます」と言って、恐る恐る口に運んだ。

 食べ始めた私の様子を目に、晶さんも食事を再開する。

 しかし、やっぱり急激な吐き気に襲われ、慌ててバッグからハンカチを取り出し口元を押さえた。


「美鈴、大丈夫か?」


 私の様子に、また食事を中断した晶さんが心配そうに顔を歪める。


「ごめんなさい。お手洗いに」


 それ以上の弁解もできず、それだけ言うので精一杯だった。バッグを掴み、そそくさとひとり席をあとにする。

 こんな様子を見せたら、妊娠がバレてしまうかもしれない。

 頭の中はその心配で一色だった。

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