外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 結局あの後、近くのレストルームにひとり駆け込み、落ち着くまでしばらく休んでしまった。

 晶さんの待つカフェに戻っても、スパゲティは食べることができず、私の様子を目に晶さんは「無理しなくていい」とほとんど残ったスパゲティのプレートを下げてくれた。


「今日は悪かった。風邪気味とも知らずに外出させたりして」

「いえ! そんなことないです」


 帰りの車に乗り込むと、晶さんは申し訳なさそうに謝罪を口にする。

 ここ最近、少し体調を崩していた。吐き気を催すタイプの風邪のようだ。

 レストルームで晶さんを誤魔化すための嘘を考えて、たちの悪い風邪をひいてしまったということにしようと決めた。

 悪阻ということを勘付かれないようにしなくてはいけない。

 そう告げられた晶さんは、今日連れ出したことをさっきから何度も謝っている。

 全部嘘なのに、私の話を信じて謝ってくれる晶さんに申し訳ない気持ちで胸が締め付けられる。本当はこんな嘘つきたくないのに。

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