外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
目を向けると、そこにはふくよかな中年女性がひとり。私と同じアジア人だと姿を見てすぐにわかったけれど、話している言葉はどうやら中国語だ。
どこか興奮気味で、怒鳴るような口調で連れの男性に言葉を投げかけている。
男性も同じくらいの歳と見受けられるアジア系で、見たところ夫婦か恋人という関係のようだ。
何かトラブルだろうか。そんなことを思いながら改めてお店のドアノブに手をかけたとき、女性の視線がカッと私の姿を捕らえた。
「嘿,你!」
こちらに向かって〝ちょっとちょっと!〟といったジェスチャーで手招きする女性。明らかに私に向かって声をかけている。
どうしようかと悩む間もなく、女性は引き留める男性の制止を振り切りこちらに向かってどすどすと近づいてくると、まくし立てるような口調で中国語を話し始めた。