外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
いつからなのかはわからない。
モルディブで出会い、意気投合し、この人と一夜の夢を見たいと思った。
帰国後、運命のようにお見合い相手として再会を果たし、お互いのために婚姻を結ぶという道を共に選んだ。
利害の一致──はじめはそれだけだったのに、時間を共有するうちに特別な感情が芽生えていたのだと思う。
だから、あの女性のことも気がかりだし、妊娠したと伝えて彼を困らせることをしたくないと思ったのだ。
フランス大使公邸に到着し、晶さんに続いてタクシーを降車する。
着物と草履のため慎重に足を下ろしていると、視界にすっと手を差し出された。
「足もと、気をつけて」
「ありがとうございます」
深く考えずに差し出された手を取る。
私の手を取った晶さんは、しっかり指を絡めて手を繋いだ。
久しぶりの晶さんの体温を手の中で感じ、鼓動が早鐘を打ち始める。
ちらりととなりにいる晶さんを見上げ、普段よりも更にかっちりと決まっている姿に私の身も引き締まる。
パーティーシーンに合わせて、今日は少し光沢のあるダークグレーのスリーピースを身につけている晶さんは、髪もいつもよりアップバングに仕上げている。