外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 フランス大使をはじめ、次から次へとかなり多くの参加者と挨拶を交わした。

 晶さんがフランス語だけにとどまらない語学力で談笑している姿をとなりで見ていると、私ももっと勉強しなくてはと刺激をもらったのは確か。


「そうなんですね。じゃあ、お手洗いに行ってから、少しお庭にでも出てみます」


 そんな話をしていたところ、向こうから「大河内さん」と声がかけられる。

 揃って振り向くと、さっき挨拶をさせてもらったスーツの男性がふたり頭を下げていた。


「行ってください」

「ひとりで大丈夫か」

「大丈夫ですよ。少し休んですぐに合流しますので」


 ついクスッと笑ってしまう。ひとりで大丈夫かなんて心配されるとは、なんだか子どもみたいだ。

 話しかけてきた男性たちに頭を下げ、晶さんの元を立ち去る。

 レストルームを見つけて入り、「ふう」と一息ついた。気を張っているせいか、ひとりになった途端どっと疲れが押し寄せる。


『妊娠初期は大事な時期だから、あんまり無理しないように』

 佑華さんからの言葉を思い出し、お腹の赤ちゃんが心配になる。

 立ちっぱなしもあまりよくないと聞いているし、少し座って休まないと。

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