外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
現れたと思えば、開口一番信じられない言葉をかけられた。
驚きのあまり言葉を失う。
「私、あなたのこと覚えているわよ。モルディブの大使館で会ったものね」
どうやら彼女のほうも私とモルディブで会ったことを覚えていたようだ。しっかり施されたアイメイクの目で睨まれるのは威圧感がある。
「異国の地で困って、優しくしてくれた大河内に色仕掛けでもしたわけ?」
「そ、そんなことするわけ──」
「それで、妊娠でもしたって虚言でも吐いたのよね。そうじゃなきゃ、彼のような人があなたみたいな女と一緒になるわけない。脅したのよね」
妊娠──そのフレーズを出されて、反論しようとした言葉が頭の中から飛ぶ。動悸がして、彼女の鋭い目を見たまま固まっていた。
「つり合わないわよ。早いところ彼を解放してあげて」
結局何も言い返せないまま、颯爽と立ち去っていく彼女の綺麗なドレスの後ろ姿を見送っていた。