外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 ベンチを立ち上がったのは、それから数十分後。

 庭園を見物したらすぐに合流すると言ったくせに、ずいぶん時間が経ってしまったと気持ちを焦らせながら公邸内に戻る。

 歓談しながらの立食パーティーの会場は非常に賑やかで、その中に晶さんの姿を捜して歩き回った。


 ここにはいないのかな……?


 一際目を引く晶さんをこれだけす捜して見つけられないのなら、きっとこの会場外にいると判断して外へと出てみる。

 きょろきょろと姿を捜しながら通路を歩いていると、黒いイブニングドレスの後ろ姿が向こうに見えた。

 直観的に嫌な予感がして、息を潜めてその先へと近づいていく。

 男女の話し声が聞こえてきて、無意識にあのモルディブの大使館での出来事が頭を過った。

 設置されている観葉植物の木の陰からその先を覗く。目にしたふたりの人影に、心臓が嫌な音を立てて高鳴った。

 やっぱり、覗かなければよかった。あのモルディブでのときもそう思ったのに、私は学習能力が足りないのだろうか。

 上背のあるモデルのようなスタイルの晶さんと、イブニングドレスを見事に着こなす外交官の女性。

 誰がどう見てもお似合いのふたりの姿は、私の胸をきつく締め付ける。

 何を話しているのかわからないうちに、立ち去りかけた女性の腕を晶さんが引き留めるように掴んだのを目撃した。

 今度こそ見てはいけないものを見てしまった。

 驚いて身を引いた拍子に木の葉がカサッと音を立てる。

< 220 / 254 >

この作品をシェア

pagetop