外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「晶さんっ、離して」

「離さない。とにかく、部屋に戻って話がしたい」


 抱きしめる腕を緩めた晶さんが私の落とした荷物に目を向ける。

 濡れた地面にはバッグから一部中身が飛び出し散らばっていて、その光景にサッと血の気が引いた。


「これ……」


 しかし、気づいたときにはすでに時遅し。

 晶さんの視線はどんどん雨に濡れていく母子手帳に注がれていた。

 まさか、こんな形で見られてしまうとは思いもしなかった。

 少し前に区役所に行ってもらってきたばかりの母子手帳。

 保管しておいては何かの拍子に見られてしまうのではと、もらってからは出かけるバッグに常に入れ、肌身離さず持って歩いていた。

 こんなことになるなら、部屋のどこかにしまっておけばよかった。

 今更思っても仕方ない後悔に苛まれているうちに、晶さんが手早く散らばった荷物を集める。


「とにかく、部屋に戻ろう」


 それだけを言い、私の手を引いてマンションのエントランスへと向かっていった。

 部屋に着くなり、晶さんはバスルームへと私を連れていく。

 ドアを閉めるなり、私の着物の帯に手をかけた。

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