外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
着替えを済ませてリビングに出ていくと、晶さんも濡れてしまったスーツから着替えを済ませていた。
髪はタオルで拭いたせいか、さっきまでのカチッとしたセットは崩れている。
何から切りだそう。それを考えると目も合わせることができずに俯いた。
リビングの入り口で足を止めた私の元へ、ソファから立ち上がった晶さんが歩み寄る。無言で肩を抱き、そのまま今自分が掛けていたソファへと私を連れていった。
横に並ぶ形でソファに腰を落ち着かせる。
「隠していて、ごめんなさい。でも、晶さんに迷惑はかけない覚悟はもうできていますので」
変な間を置かずに、一気に話を切り出す。膝の上に置いた自分の手だけを見つめ、晶さんの顔は見られない。
横から彼の視線を痛いほど感じて、心臓がこれまで感じたことのない不安な音で鳴り響いた。
「迷惑はかけないって、何を言ってるんだ」
認知うんぬんではないのはわかる。この世に自分の血を分けた子どもが存在すること自体が、晶さんにとっては許せないことなのだろう。
「認知は求めません。私との今の関係も終わりにしてもらって構わない。だけど、このお腹の子は、堕ろしたくはないんです。私がひとりで、晶さんには一切迷惑かけずに産み育てますから、だから──」
必死に紡いでいた気持ちと願いは、抱き寄せられた晶さんの胸の中に消えていく。
それ以上の言葉は聞かない。そんな強引さだった。