外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「頼むから、ひとりで勝手に決めないでくれ」
「え……?」
「俺は、その子の父親になれないのか?」
晶さんの腕の中で目を見開いていた。
今、なんて……?
「なんで……そんなこと。だって、晶さんはさっきの女性と」
「彼女とは、過去も現在もただの同僚でしかない」
きっぱりと断言するような言い方は、嘘を言っているようには聞こえない。
晶さんは抱き寄せた腕を緩め、真っすぐに私の目を見つめた。
「さっきのを見て誤解したのかもしれないが、何もない。美鈴に、俺と離婚しろと迫ったと聞いて、ついカッとなった」
庭園でのことに違いない。私と会ってそんな話をしたと、彼女が晶さんにわざわざ言ったのだ。
「また後日、美鈴に直接会いに行くなどと言われて、やめてくれと引き留めた。それだけだ」
「じゃあ、あの人とは何も……?」
私の確かめるような視線に「あるはずない」と微笑を見せた。
「この先、美鈴を手放すつもりもないし、離婚もしない。だからもう諦めてほしいともきっぱり言ってきた。だから、もう変な心配はしなくていい」
やっぱり彼女は晶さんが好きで、長く想いを寄せていたのだ。でも、それは彼女の一方通行だった、ということ……。