外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
鼓動が大きく音を鳴らして、体中に響いている感じがする。
驚きと喜びがせめぎ合って感激し、それはすぐに涙に変換された。
晶さんが私と同じような気持ちでいてくれたこと。お互いに惹かれ合っていたという事実に溢れ出した涙が止まらない。
「悪かった。もっと早く気持ちを口にしていたら、美鈴がひとりで抱え込むこともなかったのに」
何も言葉が出てこなくて、大袈裟なくらい首を横に振る。そんなことはない。その気持ちを込めて。
晶さんは黙って私を抱きしめ、しばらくそのまま背中をさすってくれていた。
「美鈴」
お互い言葉なく静かな時間が流れたあと、晶さんがぽつりと私の名前を口にする。
腕を解いて私の顔を確かめるように見つめた。
「実は俺も、美鈴に話してないことがある」
「え……話して、ないこと?」
晶さんは「ちょっと待ってて」と言ってひとりソファを立ち上がる。
リビングを出ていき、少ししてすぐに姿を現した。
戻ってきた晶さんの手には、ポストカード程度のサイズの何か紙のようなものがある。
すぐ目の前まで近づいたとき、それがフォト用紙であることがわかった。
晶さんは手元のフォト用紙に一度目を落とし、微笑を浮かべてそれを私へと差し出す。
不思議に思いながら受け取ったフォト用紙を目にして、一瞬、時が止まったような感覚に陥った。