外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「少しは落ち着いたか」


 病室に入りベッドに横になった私に、ベッドサイドの椅子に掛けた晶さんが心配そうな表情を浮かべて訊く。


「はい。大丈夫です」


 繰り返した陣痛で、今もまだ下腹部は痛みが残る。

 しかし、あの強烈でもうだめだと思えるほどの痛みが、赤ちゃんがお腹から出てきた途端に嘘のようにふっとなくなるのは不思議で仕方ない。


「どこか痛むか? 何かしてほしいことがあれば、帰るまでになんでも言ってほしい」

「大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 今日もやっぱり晶さんが過保護で、ついクスッと笑ってしまう。

 それでも晶さんは心配そうな面持ちを崩さず、私をじっと見つめている。


「私は、こうして晶さんが来てくれただけで一気に勇気づけられましたから。本当に産めるの?って不安になってたのが、産める!って急に思えたんですよ」


 声を聞いた瞬間、顔が見えた途端、不安が吹き飛んでいくようだった。

 安堵が胸に広がって、根拠はなくても〝もう大丈夫〟と思えたのだ。

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