外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
さっきお店を薦めてくれたスタッフの姿があれば、そこでお昼を買ってきたとお礼を言おう。
そんなことを思いながらこじんまりとしたホテルの入り口を入っていくと、出がけとは違った雰囲気がフロント前に見られ足が止められる。
警察と思わしき男性がふたり、ホテルスタッフと話をしていて、その近くでは客であろう男性がひとり、別のホテルスタッフに興奮状態で詰め寄っていた。
ただ事ではない空気に、邪魔にならないように部屋へと向かう。が、警察の対応をしているスタッフに呼び止められた。
神妙な面持ちのスタッフと、険しい表情の警察官からただならぬ緊張感が伝わってくる。
「嘉門さん。実は……」
このホテルで唯一日本語が話せるという女性スタッフが私へと近づき、重い口を開いた。
「客室に、空き巣が入ったようで……何件かお客様に被害が出てしまったのです」
「えっ、空き巣、ですか?」
「はい。まだ確認中なのですが、被害に遭った部屋は、金庫内の貴重品は持ち去られてはいないものの、部屋に置いてあった物品が何品か……。大変申し訳ないのですが、嘉門さんもご確認いただきたいのですが」
逸る気持ちを抑えて「わかりました」と答え、足早に自分の滞在している客室へと向かう。
後方からスタッフと警察官ひとりがついてくるのを感じながら、部屋の鍵を開け中に入った。