外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「もう! わかってるなら、次こそお見合いの話を断るのはダメよ」
「はいはい。タイミングが合えばね」
「タイミングって! ちょっと、まだ話は終わってないわよ」
「飛行機の時間に遅れたらまずいから、その話はまた今度」
「美鈴!」
逃げるように荷物を持って玄関のドアに手をかけた私に、母は「気をつけていきなさいよ!」と慌てて声をかける。
海外を飛び回る仕事を続けてきた娘を送り出すのももう慣れたものだけれど、必ず「気をつけなさい」と言ってくれるのは密かにありがたいなと思っている。
「行ってきます」
閉まっていくドアに向かって声を返し、足早に自宅をあとにした。