外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「この国に来て、二年になります」
「二年。そうなんですね。やっぱり、いろいろな国に行かれるものなんですか?」
「モルディブに勤務する前には、少しの期間本省勤務をして、その前はフランスのほうに行っていました。五年近く」
「へぇ……フランスに。もしかして、かなり外国語話せたりしますか?」
ふと、今日の昼間の出来事を思い出し訊いてみる。
英語に中国語、フランスにも長くいたようだからフランス語も話せそうだ。
「いえ、そんなことは。十か国語ほどしか話せないです」
「えっ、十か国語!?」
驚きのあまり、スープをすくい上げたままの状態で動きが止まる。
「え、十か国語って」
「英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、ヒンディー語、アラビア語──」
大河内さんは淡々と当たり前のように話せる言語を上げていき、私は静止したままそれを呆然と聞く。
「ロシア語、韓国語と、それにこの国で使われているディベヒ語ですかね……嘉門さん? スープが、ぽたぽたと」
「あっ! す、すみません」