外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
なめらかなビジソワーズをいただき終えると、大きなホタテをグリルしたポワソンが登場する。
緑やオレンジ色のソースが白いプレートに絵を描くように垂らされ、添えられている野菜や食用花が鮮やかで美しい。
「綺麗ですね。食べるの勿体ないくらい」
「ええ、芸術的ですね」
そんな和やかな食事の席に、スマートフォンの着信が鳴り響き始める。
それは私のバッグの中からで、「すみません」と慌ててバッグに手を突っ込んだ。
「どうぞ、出てください」
「あ、はい。ありがとうございます」
大河内さんの気遣いの言葉に返事をしいながら見た画面には、なんと日本の母の名前が。
着信は〝早く出なさいよ〟と言わんばかりに鳴り続けている。
「すみません、少しはずします」
断りを入れて席を立ち、通話しても迷惑にならなそうなバルコニーの端へと向かった。