外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「やっぱり……またその話か」
ため息混じりにそう言った私に、電話の向こうの母は『またって!』と声を張る。
『帰国したらすぐの予定で段取ってもらうから、次は逃げられないわよ』
「もう勘弁してよ。私にだって都合と気持ちの問題があるんだから」
『美鈴の都合と気持ちの準備を待ってたら、私たちあなたのドレス姿も孫も見られないわよ』
そう言われると反論する言葉に詰まる。
私だけの気持ちを主張するのなら、結婚や出産だけが女の幸せではないと思っている。
だけど、やはり両親にとっては、娘の花嫁姿を見ることや孫を抱くことは、夢であり幸せなのかもしれない。
だけど……。
『とにかく、帰国したら一度お見合いの席があるということ、忘れないでね』
「…………」
どうしても〝わかった〟とは返答できず、黙り込む。
そんな私を電話の向こうの母は優しい声で『美鈴』と呼んだ。
『じゃ、仕事頑張ってね』
「ありがと」
通話が終わり、耳元からスマートフォンを離す。
思わず「はぁ」と深いため息が出てきていた。