外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
モルディブから帰国をすれば、お見合いの席が用意されているという自分の未来はどんよりと暗い。
こんな風に予告の電話を寄越すくらいだ。もう次は逃げられる自信がない。
一体、どうしたら……。
「すみませんでした」
通話終えて席に戻ると、大河内さんは食事の手を止め闇にのまれ始めた海の先を眺めていた。
「いえ。大丈夫ですか?」
「あ、はい。ちょっと日本の母からで」
「お母様から。そうでしたか」
席に座り直し、スマートフォンをバッグに戻す。
いただこうとしていたポワソンがそのまま私が戻るのを待っていて、ナイフとフォークを手に取った。改めて「いただきます」と口にする。
正面の大河内さんに目を向けると、どうやら私が戻るのを待ってくれていたようで、料理は手を付けていない状態のままだ。
「何かありましたか」
「え?」
言葉なく再開した食事の席で、大河内さんがポツリと訊く。
私は大きなホタテの身をナイフで切り、フォークに刺したところでプレートから顔を上げた。
「戻ってきてから、表情が浮かないものになっているので」