外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
思わぬ話の展開になり、食事の手は相変わらず止まったまま。
私の視線を受ける大河内さんはフォークに載せたホタテを口へと運び、咀嚼を終えてから「ええ」と短く返事をした。
「日本にいたときには、何度か。また戻れば、話が待っていると思ってます」
「そうだったんですか……」
「でもそんな様子では、お見合いはしたくないといったところでしょうか?」
「はい」
私からきた即答に、大河内さんはフッと笑う。
そして、「あなたはハッキリとしている方だ」と言った。
「だって、初対面の、よく知りもしない相手と会わされて、結婚を前提にだなんて……私には考えられなくて」
そんな風にして出会って結婚したとしても、果たして幸せになるのだろうか。
私には、お見合いなんてして結婚相手を探す人の気が知れない。
「そもそも、結婚ってそんな無理してまでしなくちゃいけないのかなって思ってるくらいで」
「わかります。あなたの意見に激しく同意ですね、私も」
そう言ってくれた大河内さんに、つい「ですよね⁉︎」と声を弾ませる。
どうやら大河内さんもお見合い反対派のよう。
ひとりきりの戦場で、仲間を見つけたようなそんな気分だ。